関西〜中部ツアー06


9月7日(木)-------------------------京都二条NANO

朝一のバスで京都へ出発。バスん中はワシと、もうひとりアベックの片割れの男以外は、みな女性客ばかり。京都ってそんなに女性に人気があるのだね。

昼過ぎに京都駅に着。まづは、外国人バックパッカーからの情報で得た安宿「京都ホワイトホテル」を捜す。ざっと見渡してそんな名前のモノが見当たらぬので、書店に入り地図と街ガイドを立ち読みして検索す。ちょいと入り組んだ場所に、無事発見。チェックインして、次は会場のNANOを捜す。

地下鉄の出口をひとつ間違えたお陰で、えらいこと迷ってしまった。1時間遅れで会場に到着。

けふはピンのミュージシャンばかり3人が出演。原口直樹さんは、ちょっと不思議な浮遊感のある楽曲の弾き語りで、これは何故なのだらう?と考える。本人曰く「横着なのでコードを適当に端折ってるんですよ」との事。もちょっと声がしっかり出れば、かなり独特な世界を達成できると思ふ。

もうひとりの竹上久美子ちゃんは、完全にメジャー指向のピアノ弾き語り。まぁ二十歳そこそこでメヂャー指向ぢゃない方が変か。たいへん可愛らしい娘だが、技術や楽曲は基本的な事がしっかり押さえてあって、仲々。ただまぁ、おぢさんが聴くにはちょっとツラい歌詞かね(笑)。

アウェイなのでまん中に出番が来るもの、と信じて疑わなかったのだが、トリだった。

久美子ちゃんが終わったらみんな帰っちまうンぢゃないか?とも思ったが、一応お客さんは全員残ってくれた。そこそこ期待して来てくれた人もゐるみたいで。中でも「広島で一度見た事がある」といふ若い男の子が来てくれてゐて、「てにをは」も「美味と珍味」も持ってゐる、といふ。嬉しいね。ありがとう。

で、本番。

こ・れ・が・。

まったく誉められたものではないモノを演ってしまった。

まづ、初っぱな「月の路」の冒頭、即興でヴォイスを練り上げて行く部分で、いきなり咳が出た。それで焦ったせいか、ループのタイミングは外すわ、踏み間違えるわ、こんな演り慣れた曲で、こんなに失敗したのも初めてかもしれぬ。「春」での中間ベースソロの部分では、指がこわばって全然動かぬし、自信作「夜の駱駝」ですら歌詞を間違える始末。「忘れないで」では指がすっぽ抜ける、といふ失態まで演じてしまった。

それでも後半にかけて調子は戻り、会場も失敗をそれ程気にせぬでよい位には盛り上がってくれてゐる。ホーミーをやった時には拍手が起きたし、最後にはアンコールも来た。

CDもよく売れたし、オーナーの杉浦さんも「感動で涙が出た」とおっしゃった。ブッキングの西村さんにも「もう、いつでも好きな時に来て下さい」とも云うてもらへた。自分的には『ありゃりゃ』な出来だったが、さういふ好評価を真摯に受け止めやう。ありがとう、京都。

今回のツアー演目:月の路/春/こきりこ節/夜の駱駝/忘れないで/らのえてぃあ、までを基本セットとす。これに雰囲気を見て色々と加えた。けふは丘にのぼる時/此岸の朱をプラス。アンコールでは家路をレゲェヴァージョンで演る。初めての試み。


9月8日(金)---------------------------移動日:京都→名古屋へ

昨日の昼に名古屋の協力者、小島龍治さん(ヴォーカリスト/パーカッショニスト)から電話があり、よんどころなき事情で、けふの名古屋一日目のライヴが中止になった事を聞いた。

だからけふは「前乗り」となった。急ぐ理由がないので、ホンマにのんびりと在来線で東に向かふ。色々と調べたが、京都から名古屋へ直接行く便はなささうである。米原(まいばら)といふ処が、山陽本線と東海本線の分岐になるらしい。ぢゃとりあへずそこまで行こう。と決める。名古屋のマミ(キーボード)にその旨を伝え、適当に電車に乗る。

ワシの身体には、微妙〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぅに「鉄っちゃん」の血が流れてゐるやうで、かうした在来線の長い行程が、全く苦にならない。一応退屈を紛らわすのに文庫本を持って来はしたが、全然読まずに、づっと窓の外を流れてゐく風景を見てゐる。素晴らしい眺め。

米原駅には14:00頃に到着した。分岐点、といふからには少しは栄えてゐる処かと思ったが、なんとも鄙びた小さな街で、駅前に大形のスーパーがあるだけ。手ごろな飯屋もないので仕方なくカロリーメイトを買って喰ふ。

米原から名古屋へ、これまた直行がほとんどない。しかしまぁ1時間後の「しらさぎ」といふのに乗れば名古屋まで行くみたいだ。ので、それを待つ。

「しらさぎ」に乗って初めて、それが『特急』で別料金がかかる事を知る。まぁ乗っちまったもんは仕方あんめぇ、事情を話して特急料金払えば、まぁ走行中の列車から放り出される、なんてこたぁないだらう。と、まぁ空いてる座席に座って、相変わらず外を見てゐた。そしたら結局、名古屋に着くまで車掌がやって来ず、ワシは通常料金で特急に乗って名古屋入りをしてしまった。自分から名のる程の事でもないか、って事にして、そのまま改札を抜ける。

マミと合流して龍治さんところへ。けふのところは3人で宴会。サウナに入って汗を流し、龍治さんが経営してゐるアパートの空き部屋を借りて泊まる。いつもツアーと云へばスケヂュールがぎちぎちなので、たまにはかういふのんびりしたのもよい。


9月9日(土)-------------------------名古屋東区STAY

さぁ名古屋ライヴだ。これまでの名古屋は自分が企画して、千草区のリトルビレッヂを使わせてもらってゐたが、今回、龍治さんの発案で、もう少しキャパのある所を、といふことでSTAYになった。ママさんが広島出身者ださうである。

普段からライヴを演ってゐる店ではないので、機材やら何やらは皆こちら持ち。しかし驚くほど沢山の人が協力を申し出てくれて、立派なPA一式とチケット、ポスター、受付嬢などが揃う。この人達の誠意と好意に、なんとしてでも応えねばならぬ。

開演時間には全部のテーブルが埋まった。先日の京都は若い人ばかりだったが、けふは年輩の方が多い。初めての人もかなり居る。よーし、けふは力を抜いて・・・・・、冒頭にちこっと挨拶だけして、おもむろにイントロの即興を始める。けふは咳も出ない。いいかんぢに『アガって』行けさうだ。まづはソロで30分。だんだんお客さんが静かになって行くのが嬉しい。ループに合わせた手拍子まで起きる。すごいね。

一部の最後2曲でマミと龍治さんを呼んで、キーボード、ベース+パーカスでオルカ団のナンバーを演る。ここまでで50分。いいかんじにお客さんを引き込めてゐる。

二部のアタマで、予定にはなかった「キャメル06」を演る。龍治さんは名古屋でエスニック系の音楽のプロジェクトにも参加してゐて、まぁそれに対するこちらの手の内を見せます、みたいなかんぢ。それに続いて日頃あんまりやらん系のソロを数曲。改めて龍治さんに出てもらひ、かういふイベントでは初めて「マコンドに降る雨を見たイサベルの独白」を演った。「キャメル」と違って、全く抑揚のないこの曲はライヴ向きではないのだが、敢えて龍治さんには完全に即興で入ってもらった。

こ・れ・が・。

素晴らしい出色の出来、となった。龍治さんのモンゴル風スキャットとワシのベースが絡み合い、ワシの口タブラに龍治さんのパーカッションが呼応する。まるで決めてゐたやうに「極め」が極まる。ステージの上でなにが起こってゐるのか、お客さんが全部分かってゐる、そんなかんぢだった。物凄い拍手。いやぁ凄い。こんなセッションは初めてかもしれない。Far east lounge でカシラとやってゐるやうな事が、瞬間で起こった、ってかんぢだった。

かういふ人となら、ワシの考える『破壊に繋がらない即興』『技術の垂れ流しにならないセッション』『自分の感情でなく場の空気から生まれる音楽』が可能なのかもしれん。素晴らしい。

演目はレギュラーにプラスして、みち/カプチーノをもう一杯/キャメル06/水母の夢/君が亡くなって1年が過ぎた/マコンドに降る雨を見たイサベルの独白//刹那の季節/丘にのぼる時/千年刻みの日時計。の計14曲。

2時間と少し。すごい反響。ん〜〜〜〜名古屋は何度演ってもいいライヴが出来るなぁ。もう名古屋に引っ越しちまおうかなぁ。


9月10日(日)-------------------------大阪長堀橋Peace bar

昼前、マミが迎えに来てくれ、龍治さんに挨拶をしてから、名古屋駅まで送ってもらふ。昨日、今回の旅のテーマを名古屋のスタッフMちゃん(カワイイ)に話したところ、近鉄大阪線、といふのがあって、これが大阪はなんばに直接繋がってゐる、といふ。しかも琵琶湖沿いに走る東海本線とはルートが違い、紀伊半島をかすめるやうに平野部を進む、といふ。「微妙な鉄っちゃん」としては、これは乗るしかあんめぇ。

て、ことで近鉄線に乗って大阪まで行く事にす。最初、駅が見つからんで往生したが、なんとか見つかり、しかも安い料金での「特急」で2時間で大阪に着く、といふ事が発覚。大阪には5:00頃入ればいいので、2:00のやつを予約し、しばらく駅前でガールヲッチングす。名古屋は女子高生のミニスカがまだ生きてゐて(しかもかなり激短)、これがまたどうした事か、女性がみなスタイルが良い。ぬ〜〜〜〜、やっぱり名古屋に引っ越さうかなぁ。

近鉄アーバンライナー、といふのに乗り、なんとも情緒のある広い風景の中を列車が進む。かうして見るとホンマに「平野」だねぇ。三重あたりでものすごい雨が降り、窓ガラスに滝のやうに水が流れ落ちる。みんなはなんでかういふのを「退屈」だと思ふんだらう。

名残惜しいが大阪はなんばに到着。路線図を見て御堂筋線に乗り換え、心斎橋まで行き、長堀緑地線といふのに乗り換えたら1分もせんうちに長堀橋に着いた。心斎橋から余裕で歩いて来れる距離のやうだ。なんとなく聞いた場所の記憶を頼りにぶらぶら歩いてゐたら、音楽が聴こえて来た。Faithがリハをしてゐる。あっさりと会場のPeace barが見つかった。

名古屋、京都が決まり、あと1本関西で演りたいな、と考えて大阪のベーシスト泉尚也さんに相談したら、快く大阪でのブッキングと対バンを了承して下さった。感謝です。Faithの皆さんとはこれで3度めの共演。すっかり顔馴染みとなり、いきなりナゴむ。千秋楽をかういふリラックスした雰囲気で演れるのは嬉しい。ア、さうだ。宿、決めてねぇや。Peace barのマスターに近くに手ごろな宿がないか訊ねると、歩いて5分ぐらいの処にカプセルがある、といふので、行く。これで今晩の宿も決まり、あとはライヴ演るだけ。

大阪のイグアナ仲間がこぞって見に来てくれた。やぁやぁ皆さんお久しぶりです、とか云うてると、Faithの千夏さん(ヴォーカル)が「あれ、奥さんちゃいます?」と云ふので見ると、なんと女房がゐる。大阪の友人を訪ねて旅するのが最近の趣味となってゐる女房、友人達と一緒にサプライズを計画してゐたらしい。驚いたが、驚きすぎて無反応になってしまひ、皆さんをがっかりさせてしまった。

さて、ライヴ。お客さんも満員で、気合いも充分に乗り、沢山の友人が見に来てくれてゐる、対バンも友人だし、で、心身共にリラックスしてナイスな演奏。ギャグにうるさい大阪のオーディエンスに喋りでも笑いを取れたし。ここでもだんだん静かになって行く観客を感じる。こちらの波動が伝わって行くんなら嬉しいね。

演目はレギュラー5曲に、丘にのぼる時/此岸の朱/タ・ルガシュの空の下で、をプラスした8曲、で1時間。

あとはFaithの演奏を楽しみ、酒を呑む。千夏さんは相変わらずいい味出してるし、泉さんのベースは相変わらず美しい。ラストはFaith+ワシで、「Come together」と「I feel good」を。壮絶なベースバトルとなった(笑)。満員の観客も大盛り上がり。泉さんの学生時代の先輩、といふ方々から賞賛を戴き、感謝。これにて関西〜中部ツアー、大団円!。ありがとう、大阪。

打ち上げは和やかに。色々とお話をして、改めて泉さんの人間として、またミュージシャンとしての懐の深さを感じ、うぅむワシなどまだまだだなぁ、と感じる。

カプセルホテルにはとても可愛らしい受付嬢が居はった。2:00頃帰って来て、さぁフロに入って寝るべ!と、風呂に行くと真っ暗。良く見ると『展望浴場/日祝は12:00まで』とある。ショーック!。


9月11日(月)-------------------------帰広

どこぞのカプセルか、目覚ましが鳴り、仲々止まらぬその音に、こっちの方が目が覚めてしまふ。目覚まし鳴ったらさっさと起きて音停めんかい!。てゆーかなんで起きんのや?。他にも、チェックアウトぎりぎりの時間になって全裸でカプセルから飛び出て来た寝坊助もゐた。あいつ、多分遅刻やな。ワシはのんびりと、昨日入れなんだ展望浴場に行く。朝風呂は気持ち良い。

チェックアウトしにフロントに降りると、ゆんべの可愛らしい受付嬢が居はって、その可愛さにナゴむ。

けふは帰るだけ。せっかく此所まで来たので、主旨を貫き、在来線で広島に帰る事にす。大阪駅に行って調べてみるが、そこまでの長距離切符は売ってない。しゃあないので色々と調べ、とりあへず12:00大阪発の快速相生行きに乗り、相生で普通列車に乗り換える。一番長距離の切符が、その相生までだったので、一応それを買う。こないだみてぇに車掌が来なかったら、あわよくばキセルでもしてやらうか、と思ってゐたが、乗り換えてすぐ車掌さんがやって来た。ので、広島までの切符を追加す。全行程で¥5000ちょいぐらい。新幹線のだいたい半値ぐらいだ。

三原でまた乗り換えるが、この時点で既に3時間半電車に揺られてゐる。残り1時間半。なんとか夕方には広島に到着す。運良くづ〜っと座ってられたが、さすがに疲れた。疲れたが、ホンマに線路と云ふものがづっと繋がってゐる、といふ事実を身体で感じた。ちょっと感動してしまった。


所感

全行程バス&在来線の旅。といふ今回のツアー。出発前のナーヴァスな気持ちは途中から失せ、「自分が身ひとつで何処まで行けるか?」といふチャレンヂネスに心が踊った。まぁ旅慣れた貧乏ミュージシャンなら、これぐらいなんてこたぁない、と鼻で笑うだらうな。青春18切符で全国を廻るミュージシャンもゐるのだ。いづれはワシもチャレンヂしてみたい、と思ってゐる。

『野に下り、ひたすら「果て」を目指す』といふワシの音楽には、今回の旅はぴったりだったやうに思ふ。まぁいつまで身体が持つのか分からんが、元気なうちはこの「でらしね」続けて行きたい。

旅は人を変える。どう変わるかは分からんが、確かに変わる自分を感じる。勘と、技術と、仲間と、少しの勇気以外のモノに寄り頼む事ない自分。それが今のワシにはすこし嬉しい。切符を予約しない、宿を予約しない、といふ今回の旅の、なんと心地よかったことか。

そして、訪ね歩く先に、一緒に音を出し、協力してくれる仲間と、それを聴きに来てくれるお客さん、さういふ人達がゐてくれる、といふ幸運が、音楽家を進ませるのだ。

遠く、誰からも遠く隔たった場所で、友よ、また御会いしませう。

どうもありがとう。